東京下流人日記|ワーキングプア脱出をめざす自宅警備員の生活と意見、時事議論、書評など

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旧約・新約聖書がオリエントに与えた宗教的影響。

|2014年11月29日 14:58| 個別ページ | コメント(0) | トラックバック(0)
紀元後2?3世紀なでのオリエントの宗教世界には、諸民族の伝統を反映した神話が併存し、必ずしも一つの神話ストーリーが他の神話群を収斂することはなかった。その状況に転機が訪れるのは、紀元後2?3世紀のこと。ユダヤ人の神話や歴史を記した『旧約聖書』と、イエスの一代記を記した『新約聖書』の「聖典セット」が異常な求心力を発揮し、周辺諸民族の神話群を徐々に駆逐しはじめる。旧約聖書と新約聖書をセット化した時点で、ストーリーの接続には相当のムリがあったようにも思える。とりわけ旧約聖書の中身はたんなるユダヤ人の歴史であるが、それがエジプト人、ペルシア人、ギリシア人、ローマ人もどういうわけか、自らの神話を忘却し、ユダヤ人の神話と歴史をもっと普遍的な人類史だと確信するに至る。


古代オリエントの宗教 (講談社現代新書)
青木健 2012年

そのため、2世紀以降のオリエントの宗教史については、各民族の並列的な叙述は不可能になり、「膨張をつづける聖書ストーリー」対「それに圧倒される各民族の神話ストーリー」という対立軸が浮かび上がる。それは、13世紀になるとイスラームによって安定期に入る。本書はそこまでのオリエントの宗教史を扱っている。

紀元後2?3世紀以降の時代には、政治史的には地中海世界のローマ帝国とオリエント世界のサーサーン朝ペルシア帝国という2つの超大国によって特徴づけられる。「聖書ストーリー」への対応については、西方と東方でかなり対照的な様相を呈した。
西方では、ユダヤ人の歴史がそのまま人類史を代表するものとなり、イエスが救世主であり、世の罪をあがなったというところでストーリーは完結する。以降、西方での宗教的関心は「救世主イエスとは何者か?」という問いに集約される。これに対して、東方における福音=エヴァンゲリオンのとらえ方は異なった。土着の見とら信仰、ゾロアスター教などが「聖書ストーリー」に圧倒されるところまでは同じである。問題はその後で、以下のような問いかけをつぎつぎに発する。

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旧約聖書+新約聖書という構成を認めるべきか。土着宗教の教えは、「聖書ストーリー」のどこに座を占めるのか。「聖書ストーリー」の続編は可能か。こうした問いにより、東方の対処は西方とは異なる様相をみせ、聖書のアナザー・ストーリーとサブストーリーに分岐する。これらの運動の担い手の興味関心は、「目の前の立ち現れた聖書ストーリーに対して、どう対応するか。その真意は物語の背後に隠されており、特別な叡智(グノーシス)を会得した人間にしか会得できないのではないかという聖書ストーリーの深読みにあった。そうした運動が収束するのは、イスラームである。7世紀に、イエスの位置を相対化し、彼が「神の子」であることを否定するかたちで聖書ストーリーの続編が出現する。それが、最後の預言者を名乗るムハンマドと彼の啓示に依拠するイスラームである。
以上が、本書の前置き部分を要約したものである。こうした立場から、本書はマンダ教、マーニー教、ゾロアスター教ズルヴァーン主義、ミトラ信仰、イスマーイール派、二元論的ゾロアスター教などを取り上げる。

この本が紹介している内容は、私にとってはまったく知らなかった世界であり、きわめて興味深いものだ。グノーシス主義の中身についても興味が湧いた。グノーシス主義は自己の本質と真の神についての認識に到達することを求める思想傾向であり、代表的なものはマーニー教である。時間があいたら、もう一度読みなおしてみようと思う。


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